難しい会話の対策

職場にいても、プライベートでも、難しい会話をしないといけないときがあります。たとえば、上司に昇給をお願いしたり、部下に悪い評価を伝えたり、隣の家の人にゴミを出す日を守るように伝えたりするのは、気後れしますよね。

この記事では、ハーバード・ロースクールの講師らによる書籍「話す技術・聞く技術」(原題: “Difficult Conversations – How to Discuss What Matters Most”) で提唱されている5つのステップに沿って、どのように難しい会話の準備をして、会話そのものをすればよいのか、解説します。

難しい話をするための5つのステップとは、次のとおりです。

  • ステップ1:3つのレベルの会話を理解する
  • ステップ2:話を持ち出すかどうか決める
  • ステップ3:第3者の視点から話しを切り出す
  • ステップ4:お互いの話を掘り下げる
  • ステップ5:問題を解決する

ステップ1:3つのレベルの会話を理解する

最初のステップは、まず、難しい会話を3つのレベルから理解します。

この本によると、難しい会話をするときには、3つのレベルの会話が同時に進行しているそうです。その3つのレベルとは、次のとおりです。

会話のレベル説明
レベル1:会話の内容難しい会話で何が起こったか? 自分と相手のそれぞれのストーリー、意図、問題への貢献(加担)を理解する。
レベル2:感情難しい会話の時に、自分にどのような感情が生じたか?
レベル3:アイデンティティ難しい会話の時に、自分のアイデンティティがどのように脅かされているか? 多くの場合は、次の3つの質問のどれかに関連。
「私は有能か?」
「私はいい人か?」
「私は愛されるに値するか?」

例えば、上司に昇給をお願いするときのことを例に取ると、こんな感じです。

会話のレベル
レベル1:会話の内容「なんで私に昇給がないんですか!」と言ってやった。同僚には昇給があったのに自分にはなかった理由を聞きたかったから。相手を責める口調だった。
(自分の立場からだけではなく、相手の立場からも、ストーリー、意図、問題への貢献を考える。)
レベル2:感情難しい会話の間、不安、動揺、怒りなどを感じた。
レベル3:アイデンティティこの難しい会話では、次の観点から私のアイデンティティがおびやかされた。
「私は有能か?」

こんな風に過去に起こった難しい話や、これから起こる難しい話を、3つのレベルから考えてみます。

最初にこの話を聞いた時に、難しい話で自分の「アイデンティティ」がおびやかされるだろうか、と疑問に思いましたが、考えてみると、確かにそうだと思いました。

たとえば、部下に悪い評価を伝えるときは、上司としての有能さが試されるかもしれないこと(私は有能か?)がこの会話を難しくしているかもしれませんし、悪い人間に思われたくないという気持ち(自分はいい人間か?)のせいかもしれません。

難しい話がなぜ「難しい」のか、と考えると、自分が組織、コミュニティ、家族に属していられるかどうか、という問題に関わってくるためだと思います。それが3つの質問、
「私は有能か?」
「私はいい人か?」
「私は愛されるに値するか?」
で表現されているのだと思いました。

ステップ2:話を持ち出すかどうか決める

ステップ1で難しい会話を3つのレベルで理解したら、これをもとに、この難しい話を本当に持ち出すかどうかを決めます。

言いたいことを言ってスッキリしたいとか、自分が正しいことを分からせてやりたい、という意図だけで難しい話をするのは、生産的ではないかもしれません。この話を持ち出さないほうがいいかもしれません。

話を持ち出すことによって問題を解決したり、現状を改善したりといった生産的な結果が見込めるのであれば、相手とこの話をすることを決めます。

ステップ3:第3者の視点から話を切り出す

難しい話を相手と始めるにあたって、相手を責めるようなことを言うと、相手側も自分を守るためにムキになってこちらを責めようとするでしょう。

そこで、調停者のような第3者の視点で、話を始めるのをお薦めします。

たとえば、「なんで私に昇給がないんですか!」と喧嘩腰で上司に迫るのではなくて、「今回、私の昇給がなかった件について、非常に残念に思っています。この件で、課長のお考えをお伺いして、自分の思うところをお話させて頂く機会を作っていただいたいのですが、いかがでしょうか?」といった感じです。

ステップ4: お互いの話を掘り下げる

相手はこちらが知らない重要な情報を持っているかもしれません。まず、相手の話をよく聞くようにしましょう。マインドフル・リスニングのスキルが役に立つことでしょう。

特に相手の「気持ち」は問題を解決するために重要な情報となることがあります。よく耳を傾けましょう。

こちらが相手の話をよく聞いていることが相手に伝われば、相手もこちらの話を聞く準備ができることでしょう。

自分が話すときは、相手を責めるようなことを言わないように気をつけます。相手を責めると、相手もこちらを責めようとするので問題の解決に繋がりません。

相手を責める代わりに、自分が感じた気持ちを率直に伝えましょう。たとえば、「とても悲しくなりました。」「不安な気持ちになりました。」といった感じです。自分の気持ちは、自分にしかわからないので、相手は反論できません。

こちら側は、自分の気持ち以外にも、相手が知らない情報を持っているかもしれません。問題解決のために役に立つかもしれない情報を伝えてあげましょう。

相手がこちらを責めたり、話を聞かなかったり、決めてかかってくるようなときは、根気強く、建設的な会話になるように会話をリードして、軌道修正を行います。

ステップ5:問題を解決する

新しく得られた双方からの情報をもとに、両者が納得できる解決策を検討します。

ただし、納得できなければ、解決策を受け入れる必要はありません。時間をかけて解決策を継続して検討することに合意する、という方法もあります。

何も合意できない場合も、その結果を受け入れることができるのなら、それで構わないのです。たとえば、給料について上司に文句を言うとしても、退職する覚悟があれば、上司と何も合意できなくても構わないのです。

合意できないことによる結果を受け入れることができない場合は、そのことを冷静に受け止めて、相手の主張を受け入れます。

マインドフルネスが役に立つ

上記の各ステップでマインドフルネスがとても役に立つと思います。マインドフルネスとは、今の自分の心の中や体の感覚をありのままに観察することです。

たとえば、ステップ1では、自分の気持ちを観察します。ステップ2や3では、言ってやりたいという自分の欲望を観察してコントロールする必要があるかもしれません。ステップ4では、マインドフル・リスニングが役に立つことでしょう。


出典:「話す技術・聞く技術」ダグラス・ストーン他