慈悲の瞑想

マインドフルネス

「慈悲の瞑想」とは、自分や他者を慈しむ心を育てるための瞑想で、もともとテーラワーダ仏教の伝統の中で実践されてきたものです。ここでは、マインドフルネスストレス低減法(MBSR) で取り入れらえている「慈悲の瞑想」の意味や、効果、実践方法について説明します。

慈悲の瞑想の意味

「慈悲の瞑想」は、「慈愛の瞑想」、「愛と慈しみの瞑想」と呼ばれることもあります。英語では、loving-kindness meditation と呼ばれます。

ここでいう慈悲とは、“Loving-kindness” の著者Sharon Salzburg氏によると、「自分の命が他者と密接につながっていることを意識すること」であるといいます。この慈悲の心を育てることが慈悲の瞑想の目的です。

慈悲の心を育てることによって、自分を含め、すべての生き物にやさしい気持ちと好奇心を持って接することができるようになります。

このやさしい気持ちと好奇心は、マインドフルネスを実践するのに役に立ちます。自分のネガティブな部分についても、ありのままに受け入れることができるようになるからです。

慈悲の瞑想のやり方

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)では、第6週と第7週のクラスの間に実施する全日クラスで、慈悲の瞑想を練習します。

慈悲の瞑想のやり方は、様々な方法がありますが、基本的には、自分に対するやさしい気持ちを呼び起こして、それを身近な人から世界中の人や生き物に広げていきます。このうち、自分に対するやさしい気持ちを呼び起こす部分は、セルフコンパッションとも呼ばれます。

ここでは、しげまる講師による慈悲の瞑想の音声ガイダンスと、ジョン・カバットジン博士による慈悲の瞑想のテキストを掲載しておきます。

しげまるによる慈悲の瞑想(音声ガイダンス)

ジョン・カバットジン博士による慈悲の瞑想(テキスト)

  1. まず、呼吸に意識を向けて観察します。
  2. 自分自身に対するやさしい気持ちを呼び起こします。たとえば、だれか、親しい人が自分を受け入れてくれた時のことを思いだします。
  3. 自分自身に対して、簡単な言葉をかけます。自分で作ってもよいですし、他の人が作ったものを使ってもよいです。本当に実現すると信じて、心を込めて唱えます。たとえば、「私の悩みや苦しみがなくなりますように。幸せでありますように。健康でありますように。楽に生きていけますように。」
  4. 次に、だれか特定の親しい人のことを心に思い浮かべて、その人の幸せを願います。たとえば、「xxさんが幸せでありますように。悩みや苦しみがなくなりますように。愛と喜びを経験できますように。楽に生きていけますように。」
  5. 同じ方法で家族や子供、友人など、他の親しい人々の幸せを願います。
  6. 次に、何らかの理由で気まずい感じがしている人を一人思い起こします。自分に害をなす人や敵ではなくて、ただ、やさしい気持ちを持てなかった人を選んで、同じ方法でその人の幸せを願います。
  7. 次に、自分に害をなした人を思い起こして、その人の幸せを願います。この人がやったことを必ずしも許す必要はなく、この人も悩みや苦しみがある一人の人であることを単に認めてあげるのが目的です。この部分はオプションですので、やらなくても構いません。もちろん、この人を許してあげてもかまいません。
  8. 次に、その他の人、知っている人も知らない人も、人間以外の生き物も好きなだけ範囲を広げて、幸せを願います。
  9. 最後に、自分自身の身体や呼吸の観察をして、瞑想を振り返ってから終わります。

慈悲の瞑想の効果

ジョン・カバットジン博士によると、この慈悲の瞑想を継続して実施することによって、以下の効果があるとのことです。

  • 自分自身と他者にやさしい気持ちを持つことができる。
  • 自分自身と他者の間に絶対的な境界線などないことが理解できるようになる。
  • マインドフルネスの実践がやりやすくする。

自分の命が他者とつながっている

私は、もともと慈悲の瞑想に抵抗がありました。「自分の命が他者とつながっている」というところが宗教的で非科学的な感じがしたからです。

ところが、次第に受け入れることができるようになってきました。確かに自分の命が他者とつながっていることが分かったためです。

なぜ、私が他者とつながっていると思ったか、以下に説明します。

ミトコンドリア・イブ

細胞レベルで考えると、私の身体は、約37兆個の細胞からできています。これらの細胞はすべて、たった1個の受精卵から分裂して増えたものです。この受精卵は、もともと母親の細胞の一つに父親の遺伝子が加わって変化したものでした。

私の母親は、祖母から細胞と遺伝子を受け継いでいます。このように代々母方をさかのぼっていくと、全人類の共通の女系の祖先に行き着きます。この祖先は、「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれ、約16万±4万年前にアフリカで生きていた、とされています。

人類の移動と祖先のグループ

ミトコンドリア・イブは、遠い昔に死にました。しかし、その細胞は、死滅しておらず、私を含めた全人類の細胞として生きています。別の言い方をすると、ミトコンドリア・イブのもとの受精卵1個が分裂して、受精の度に父方の遺伝子を交えつつ、自分を含め、全人類の細胞に変化したのです。

私は全人類と細胞や遺伝子のレベルでつながっているのです。

LUCA

ミトコンドリア・イブから、さらに祖先をさかのぼっていくと、動物、植物、菌類、細菌を含む地球上の全ての生物の共通祖先に行き着きます。

地球上の生命は、動物、植物、菌類、細菌を含めて、すべて共通の祖先から分かれているのです。

この共通祖先は、LUCA (Last Universal Common Ancestor)と呼ばれています。LUCAは、約40億年前の地球に単細胞生物として生きていました。

ミトコンドリア・イブの細胞がまだ死んでいないように、LUCAもまだ死んでおらず、自分を含めた全ての生物の細胞として、この瞬間も生きている、と考えることができます。

私を含めたすべての地球上の生命は、40億年かけて巨大に成長したLUCAの一部分であると考えることもできるのではないでしょうか?

そうすると、私が他の生き物を食べたり、私が死んだ後に細菌に分解されたりするのは、巨大に成長したLUCAの細胞同士がコミュニケーションをしているようなものです。

このように祖先が同じだと考えると、すべての生き物に「同胞意識」がわいてくるのではないでしょうか? みんな、もとは同じ細胞だったわけですから。

私の体が死んだ後でも、LUCAの末裔がどこかで生きている限り、私もある意味、生きているといえるのではないか、と思います。そうすれば、この体が死ぬことはそんなに恐ろしいことではないかもしれません。

そして、どのような命でも粗末にはできないと思います。

ビッグバン

さらに、138億年前のビッグバン、つまり宇宙の始まりまでさかのぼって考えれば、自分は、全宇宙の物質やエネルギーとつながっているといえるかもしれません。

全宇宙は、一つの点から始まったとされているからです。

bigbang

私の場合、このように、ミトコンドリア・イブ、LUCA、ビッグバンといった祖先や昔の出来事を通じて、他者とのつながりを意識するようになりました。

今もつながっている

ただし、過去のことを持ち出さなくても、現在の自分に直接、間接の影響があるものであれば、なんでも、自分の命と何らかの関係性があるという見方もできると思います。

自分の家族や友人、社会があるから、自分は生きていけるわけです。また、自分の腸内や皮膚に住んでいる常在菌があるから、酸素を放出する植物があるから、食べ物になってくれる他の生き物があるから、自分は生きているのです。

私は自分の皮膚までが自分の範囲だと思いこんでいますが、これは、そう思い込んでいる方が子孫を残しやすいからです。進化の過程で作られたアルゴリズムの一部です。実際には皮膚の外側の細菌や空気、他の生き物があるから、自分は生きていけるわけです。自分は世界の一部分なのです。

まとめ

慈悲の瞑想を続けることによって、自分と他者がつながっていることを理解し、自分を含めたすべての命に対して、やさしい気持ちを持つことができるようになります。

そうすると、心が穏やかになり、マインドフルネスの練習、習得がやりやすくなります。


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