トロント大学で行われたMBSR が脳に及ぼす影響に関する興味深い実験をご紹介します。
この実験では、まず、自己認識には次の2つの区別があると仮定します。
- 自分のことを語るための自己認識: 自分の経験、能力、特徴、将来への希望などの記憶を統合して、一貫性のある自己を認識するためのもの。脳の前頭前野内側部がこの機能に関わっているとされる。
- 今起こっていること認識するという意味での自己認識: 「自分のことを語るための自己認識」とは、異なる脳の部位(島皮質)が作用しており、体の感覚の変化に由来している。
実験の方法
上記の仮定を確認するため、次の要領で実験を行いました。
- 次の2つのグループを準備します。
- マインドフルネス瞑想経験者 20名: 8週間のMBSR (マインドフルネスストレス低減法)を修了し、毎日45分以上のマインドフルネス瞑想を実践した人。
- マインドフルネス瞑想未経験者 16名: MBSR への参加を希望し、待機リストに乗っているがまだ参加していない人。
- 参加者は、まず、次の2種類の作業について約25分のトレーニングを受けます。いくつかの人の性格に関する形容詞を見て、その形容詞から次の作業を行います。
- その形容詞が自分にとってどのような意味を持つか考える。この時、「自分のことを語るための自己認識」が行われている。
- その形容詞に関連して、どのような思考や感情が起こってくるか観察する。この時、「今起こっていること認識するという意味での自己認識」が行われている。
- トレーニングのあと、同じ作業を行い、それぞれ作業中の脳のfMRI画像を分析します。
実験の結果
- 「自分のことを語るための自己認識」の作業を行っているときには、従来から指摘されているように、前頭前野内側部が活動していました。これは、瞑想の経験者でも未経験者でも変わりがありません。
- 「今起こっていること認識するという意味での自己認識」の作業を行っているときには、瞑想の経験者と未経験者で次のような違いがありました。
- 瞑想の未経験者: 前頭前野内側部の活動の低下が見られるが、瞑想経験者ほど顕著ではない。前頭前野内側部と右脳の島皮質の連動が見られる。
- 瞑想の経験者: 瞑想未経験者と比べてより顕著な前頭前野内側部の活動の低下が見られる。また、右脳の島皮質など身体感覚に関連する脳の部位が活性化している。前頭前野内側部と島皮質の連動は瞑想未経験者ほど顕著ではない。
この実験からわかること
この実験では、自己認識には次の2つの区別があるとしています。
- 自分のことを語るための自己認識
- 今起こっていること認識するという意味での自己認識
2つ目の「 今起こっていること認識するという意味での自己認識」は、まさにマインドフルネスということです。
この実験からわかることとして、次の項目が挙げられると思います。
- マインドフルネス瞑想を実践することにより、自己認識に関する実際に脳の機能が変わっていくということ。
- MBSR(マインドフルネスストレス低減法)がマインドフルネスを実践するための有効な方法であるということ。
マインドフルネスの実践方法は、世の中に色々ありますが、MBSR は、このように科学的な実験によって、その効果が確認されているということですね。
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