MBSR (マインドフルネスストレス低減法) は、アメリカのマサチューセッツ大学医学部でジョン・カバットジン博士によって開発された、マインドフルネスを実践することを通じてストレスを低減するための8週間のプログラムです。MBSR は、英語 Mindfulness-Based Stress Reduction を縮めたものです。
この記事では、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の内容、特徴、効果、歴史などを解説します。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法) プログラムへのご参加については、下の記事をご参照ください。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法) プログラムの内容
プログラムの概要
MBSR プログラムでは、8週間の間、週に1回開催されるクラスに参加し、マインドフルネスの実践方法や、ストレスへの対処方法を学びます。プログラムの後半には、朝から夕方まで開催される終日クラスにも1回参加します。
その他、MBSR プログラムへの参加者は、自宅で、毎日、60分程度の公式なマインドフルネス瞑想の実践を行い、さらに日常生活でもマインドフルネスを実践することが求められます。
MBSR プログラムが8週間という長さである理由は、マインドフルネスの実践方法を身につけ、ストレスの低減効果が得られるまで、8週間の間、継続マインドフルネスの実践を行うことが必要とされているからです。
MBSR のクラスでは、様々なマインドフルネスの実践方法を学びます。また、自宅で使用するための瞑想実践用の音声ガイダンスが提供されます。
MBSR (マインドフルネスストレス低減法) で学ぶマインドフルネスの実践方法の例を以下に示します。
時間を決めて集中的にマインドフルネスを実践する方法
日常生活でのマインドフルネスの実践方法
各週クラスの主な内容
各週のクラスで学ぶ主な内容は次のとおりです。
第1週クラス (2.5時間)
- 講師、参加者が自己紹介し、信頼とコミュニティを構築します。
- マインドフルネスの意味を学びます。
- ボディスキャン、食べる瞑想などの実践方法を学びます。
- 宿題は、毎日のボディスキャンを実践すること、ナインドットパズルを解くことなど。
第2週クラス (2.5時間)
- ナインドットパズルから、「枠にとらわれた考え」について学びます。
- ボディスキャンの宿題について、難しかったことを話し合います。
- 座る瞑想(呼吸の観察)の実践方法を学びます。
- 宿題は、毎日のボディスキャンと呼吸瞑想の実践、「うれしかったことの記録」など。
第3週クラス (2.5時間)
- 「うれしかったことの記録」について話し合います。感情の仕組みを学びます。
- マインドフルネスヨガの実践方法について学びます。
- 宿題は、毎日ボディスキャンとマインドフルネスヨガを交互に実践すること、毎日呼吸瞑想を実践すること、「いやだったことの記録」など。
第4週クラス (2.5時間)
- 「いやだったことの記録」から、ストレスの要因とその影響について学びます。
- 座る瞑想(身体の感覚や痛みの観察)の実践方法を学びます。
- 宿題は、毎日ボディスキャンとマインドフルネスヨガを交互に実践すること、毎日呼吸瞑想を実践すること、ストレスについての観察など。
第5週クラス (2.5時間)
- コース前半を振り返るとともに、ストレスへの対処について学びます。
- 座る瞑想(思考や感情を観察)の実践方法を学びます。
- 宿題は、座る瞑想(45分バージョン)とその他の瞑想を毎日交互に実践すること、「難しかった会話の記録」など。
第6週クラス (2.5時間)
- 「難しかった会話の記録」から、対人関係のストレスとそのマインドフルネスによる対処法を学びます。
- マインドフルリスニングの実践方法を学びます。
- 宿題は、座る瞑想(45分バージョン)とその他の瞑想を毎日交互に実践すること。
終日クラス (7.5時間)
- 沈黙のうちに、継続してマインドフルネス瞑想を実践します。座る瞑想、ボディスキャン、マインドフルネスヨガ、歩く瞑想、慈悲の瞑想など。
- 「今、ここ」に意識を向け続ける感覚を養い、マインドフルネス瞑想の実践を定着させます。
第7週クラス (2.5時間)
- 各自の日常生活の中に、マインドフルネスの実践を定着させる方法を考えます。
- 座る瞑想(ガイダンスを減らし、沈黙を増やす)を実践します。
- 宿題は、音声ガイダンスなしに毎日45分間これまでに学んだマインドフルネス瞑想を実践すること、など。
第8週クラス (2.5時間)
- これまでの8週間を振り返り、学んだことを確認します。
- コース終了後に、継続してマインドフルネスを実践しストレスに対処するための自分なりの方法を考えます。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)プログラムの特徴
以下、MBSR (マインドフルネスストレス低減法) プログラムの特徴を説明します。
実際の体験やグループ学習を重視
MBSR では、講義を通じて講師から学ぶことよりも、実際にマインドフルネスを体験することと、ほかの参加者との対話を通じた学習が重視されます。その方が、効果的にマインドフルネスを学ぶことができるためです。
自分自身をいたわること
MBSR プログラムの参加者は、自分自身をいたわるように講師からガイダンスを受けます。自分自身をいたわることをセルフ・コンパッションとも呼びます。
- 座る瞑想では、床に座ることに慣れていない人は、椅子に座って行うように勧められます。
- マインドフルネスヨガのポーズは、高齢者や体が不自由な方も参加できるように、簡単なポーズが採用されています。ヨガは、椅子に座って実践することも可能です。詳細は、椅子ヨガの記事をご参照ください。
自分自身をいたわることは、自分自身を客観視し、自分のネガティブな身体的な特徴や感情、思考をありのままに受け入れることに繋がり、マインドフルネスを実践するうえでも重要なことです。
宗教性の排除
MBSR プログラムで学ぶ内容は、もともと仏教の考え方や実践方法を取り入れたものですが、プログラムの中で仏教の教義や用語を学ぶことはありません。また、仏像に礼拝したり、経文を唱えたりといった儀式的な要素もありません。
どのような宗教を持つ人でも、宗教を持たない人でも、安心して参加できるように、MBSR プログラムでは宗教性は排除されています。その一方で、次の項で説明する通り、MBSR プログラムの効果は、科学的な視点から検証されています。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)プログラムの効果
多くの臨床試験により、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)が様々な身体的ストレスや精神的ストレスを低減する効果を持つことが実証されています。
ただし、すべての参加者にこのような効果があることが保証されるものではありません。
また、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)は、医療の代替となるものではありません。身体的、精神的な疾患がある方は、専門の医師の診察、治療を受けた上で、その助言を得て、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)プログラムを受けられるようにお勧めします。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)を使って行われた臨床試験をいくつか以下にご紹介します。MBSR の効果に関する記事もご参照ください。
不安障害
2009年から2011年にかけて、93人の全般性不安障害の患者に対して、MBSRとストレスマネジメント教育のランダム化比較試験をしたところ、いずれの方法でも症状の回復が見られたが、MBSRを受けたグループの回復効果の方が大きかった。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23541163
喘息
42人のぜんそく患者に対してランダム化比較テストを施したところ、肺の機能に違いは見られなかったが、8週間のMBSRを受講したグループの方が、1年後の生活の質(quality of life) が顕著に向上していた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22544892
がん
166人の乳がん患者に対して、8週間のMBSR のランダム化比較試験を行ったところ、MBSR を受講した患者は、うつ傾向、メンタルヘルスが大きく改善し、免疫反応についても大きな改善が見られた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23918953
慢性疼痛
1960年から2010年までの間に、疼痛とマインドフルネスをベースにしたプログラムに関する調査が16件報告されており、そのうち、ほとんどの調査(16件中10件) で、疼痛の大幅な緩和が確認された。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23240921
糖尿病
2型糖尿病の患者110人に対して、ランダム化比較テストを施したところ、MBSR を受けたグループの方が、5年後、うつ症状を発症する割合が低く、健康状態も良好だった。ただし、糖尿病のマーカー(アルブミン尿)のレベルは変わりがなかった。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22338101
線維筋痛症
177人の線維筋痛症の女性にランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講したグループは、健康に関する生活の質の改善が見られ、さらに、うつ症状、痛み、不安、身体症状などでも改善が見られた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21146930
胃腸障害
90人の過敏性腸症候群の患者にランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受けたグループは、症状の改善がより顕著だった。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22618308
心臓病
左室駆出率が40%以下の成人の心臓病患者208人に対して、ランダム化比較試験を実施したところ、マインドフルネスをベースとした8週間のトレーニングを受けたグループの方が、不安やうつが少なく、トレーニング後1年後もこの傾向が続いた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19081401
HIV
ART療法を受けた結果、うつ症状の副作用を示しているHIV患者76人に対してランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講した患者は、3か月後、および6か月後の調査で、ARTの副作用の頻度の減少が見られた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21925831
ホットフラッシュ
一日あたり平均5回以上のホットフラッシュが起こる女性110人に対して、ランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講した女性は、ホットフラッシュが起こる率がそれ以外のグループよりも大きく減少した。また、生活の質がそれ以外のグループよりも大きく向上した。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21372745
高血圧
56人の高血圧前症の男女56人にランダム化比較試験を施したところ、MBSRを受講したグループは、それ以外のグループよりも高血圧症の改善が見られた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24127622
気分障害
39件の文献を調査したところによると、マインドフルネスをもとにしたセラピーは、不安障害、気分障害の改善に効果が認められた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20350028
睡眠障害
デンマークで乳がん手術後の不眠で悩む336人に対して、ランダム化比較試験を行ったところ、MBSRの8週間のコースに参加した人は、睡眠の質が大幅に改善し、12か月後の追跡調査でもこの傾向は変わらなかった。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23282113
ストレス障害
中間管理職114人の被験者に対して、ランダム化比較試験を実施したところ、8週間のMBSRコースが、仕事に関するストレスを低減し、職場における心理的な適応力を強める効果があることが認められた。
出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22125187
MBSR (マインドフルネスストレス低減法) の歴史
MBSR (マインドフルネスストレス低減法) の創始者、ジョン・カバットジン博士は、1970年台のはじめ、マサチューセッツ工科大学(MIT)卒業後、分子遺伝学を教える教職に就いていましたが、その傍らで、マインドフルネスヨガのインストラクターもしていました。
博士は在学中からマインドフルネスに興味を持ち、韓国人の禅僧 Seung Sahn師から禅の手ほどきを受けていました。
博士はその後、マサチューセッツ大学 (UMASS) 医学部で教職を得ます。

1979年の春、ジョン・カバットジン博士は、2週間のマインドフルネス瞑想のリトリート(合宿)に参加しました。このリトリートの間に、博士は疼痛に悩む患者に対してマインドフルネスを役立てるというアイデアを思いつきました。
博士は、マサチューセッツ大学の大学病院の医師から、疼痛に悩む患者の10-20%しか救うことができないと聞いていました。マインドフルネス瞑想を通じて、身体の痛みによるストレスを緩和できるのではないか、と考えたのです。
博士は、このアイデアをもとに、1979年9月、ストレス低減・リラクゼーション・プログラム (Stress Reduction and Relaxation Program) をマサチューセッツ大学医学部の一室で始めました。
その後数年のうちに、この活動はストレス低減クリニック (Stress Reduction Clinic) として、マサチューセッツ大学医学部の一部門として正式に認められるようになりました。1990年台のはじめに、マインドフルネスを活用していることを明確にするため、マインドフルネスストレス低減法 (MBSR: Mindfulness Based Stress Reduction) と改称されました。
カバットジン博士によると、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)では、テーラワーダ仏教の伝統的な瞑想法が採用されていますが、その他の仏教やヨガの実践方法も部分的に取り入れられているそうです。初期のMBSR関連の論文には、テーラワーダ仏教、曹洞宗と臨済宗などの禅宗を含む大乗仏教の他に、ベーダーンタ学派、クリシュナムルティ、ラマナ・マハルシなどのヨガの伝統が引用されています。
ただし、 MBSR (マインドフルネスストレス低減法)プログラムでは、どのような宗教を持つ人、あるいは宗教を持たない人でも気兼ねなく参加できるように、宗教性は注意深く排除されました。

MBSR (マインドフルネスストレス低減法)プログラム は、アメリカを始め、世界各国で実施され、これまで24,000人以上が参加してきました。
数々の学術研究で、MBSR が、疼痛などの身体的なストレスだけでなく、精神的なストレスに対しても有効であることが証明されています。
1990年台には、ジョン・ティーズデイル博士、ツインデル・シーガル博士、マーク・ウィリアム博士により、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)をもとに、再発性うつ病への対策に焦点をあてたマインドフルネス認知療法 (MBCT)が開発されました。
MBSR (マインドフルネスストレス低減法) への参加方法
MBSR (マインドフルネスストレス低減法)のコースは、マサチューセッツ大学医学部マインドフルネスセンターなどで認定を受けた認定講師によって、世界各地で運営されています。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)のコースの参加方法は下のリンクをご参照ください。
