「自分に対する思いやり」は、マインドフルネスの実践のためにとても役に立つものです。また、マインドフルネスの実践を通じて、自分に対する思いやりを育てることができます。
この記事では、「自分に対する思いやり」について、その意味、効果、実践方法に関する疑問に答えます。自分に対する思いやりは、セルフコンパッション (self-compassion) とも呼ばれます。
自分に対する思いやりとは
私は、「自分に対する思いやり(セルフコンパッション)」という言葉を最初に聞いたときに、戸惑いを感じました。
「自分にやさしい人」というと、目標達成のための努力を怠る人、あるいは、欲望や誘惑に身を委ねてしまう人、というイメージを持っていました。また、「思いやり」は他人に向けられるもので、「自分には厳しい人」が尊敬されるべき人だと思っていました。
ところが、セルフコンパッション研究の第一人者である、クリスティン・ネフ博士によると、自分に対する思いやりの意味は、私が思っていたものとは異なります。ネフ博士によると、
自分に対する思いやりとは、「人にやさしくしてあげるように、自分にもやさしくしてあげる」こと
The Space Between Self-Esteem and Self Compassion: Kristin Neff at TEDxCentennialParkWomen
だそうです。
つまり、他人の幸せを願ったり、苦しい時に寄り添ってあげたりするように、自分に対して、幸せを願い、苦しんでいるときに寄り添ってあげる、ということです。
たとえば、自分の家族や親しい友人に対して、優しい気持ちをもって接することができますね。例えば、親しい人が何かに失敗した時に「大丈夫だよ」と、言ってあげることができます。
しかし、自分自身に対して、このような優しい言葉をかけることができるでしょうか? 私の場合、むしろ、「これは自分のせいだ」とか、「もう一度やってもだめに決まっている」とか、ひどいことを無意識のうちに、ずっと言い続けていることがよくあります。
もし、意識的に自分に対しても優しい気持ちを持つことができれば、気持ちも楽になるでしょう。
ネフ博士によると、自分に対する思いやりと自尊心とを比較すると、その違いがよくわかるといいます。
自尊心は、競争し、成功するために必要な資質ですが、自尊心のみ強い人は、他人との関係を悪化させ、失敗したときに立ち直れなくなる恐れがあります。
自尊心に加えて、自分に対する思いやりを持つと、他人との関係を改善し、失敗したときもダメージを少なくすることができます。
次の表は、その違いをまとめたものです。
自尊心 (セルフエスティーム) | 自分に対する思いやり (セルフコンパッション) | |
---|---|---|
向上させるためのプロセス | 自分を特別視し、他者よりも上位をめざして励む。(競技、出世) | ありのままの自分をやさしい気持ちをもって観察する。(マインドフルネス、慈悲の瞑想) |
他者との関係 | 自尊心を向上させるプロセスで、人を見下し、あるいは、自分を卑下することによって、他者との関係を悪化させることがある。 | セルフコンパッションを向上させるプロセスで、自分へのやさしい気持ちを他者にも拡大することにより、他者との関係は改善する。 |
成功との結びつき | 何かに成功すれば、自尊心は劇的に向上し、失敗すれば、崩壊する。 | 何かに成功しても失敗しても、自分に対する思いやりは維持できる。 |

セルフコンパッションの効果
モチベーションの向上
「自分に優しくすると、怠けてしまって、モチベーションが下がってしまうのではないか? だから自分にはいつも厳しくするべきだ」、と思われるかもしれません。
ところが、ネフ博士によると、自分を批判することはモチベーションの向上にはつながっていないそうです。
私たちは攻撃をうけると、「戦うか逃げるか」の対応するためにストレスホルモン(コレチゾール)が体内で分泌されます。これは私達の遠い祖先が、進化の過程でまだ爬虫類だったときからの特徴です。

自分を批判するということは、自分で自分を攻撃すると同時に、その攻撃に対して反撃をするということです。このため、二重にストレスホルモンが分泌されてしまいます。自分への批判が習慣になってしまうと、常にストレスホルモンが分泌され続けてしまいます。これがもとで、「うつ」を引き起こす恐れがあります。
私達の祖先が爬虫類から進化して哺乳類になると、子供がある程度大きくなるまで母親の愛情を受けて育つようになりました。

母親はその温かさや、ソフトなタッチ、柔らかな声で子供を安心させるのです。そうするとストレスホルモンのレベルは下がり、オキシトシンやオピアトといった気分がよくなるホルモンが分泌されます。
人は、安全で安心できる環境にいるときに、ベストを尽くすことができます。そのためには、批判を受けるよりも、やさしい気持ちを浴びる方が望ましいのです。
つまり、セルフコンパッションはモチベーションを向上させる効果があるのです。
メンタルヘルスの向上
ネフ博士によると、これまでの様々な調査によって、セルフコンパッションがメンタルヘルスの向上に寄与しているとのことです。次のような効果があるとされています。
- うつ症状、ストレス、パーフェクショニズム(完璧主義)の軽減
- 幸福感、人生の満足度、モチベーションの向上
- 他者との関係の向上
自尊心の補完
セルフコンパッションと自尊心の関係の調査によると、セルフコンパッションを強化することによって、自尊心のネガティブな面を回避できることがわかっています。
たとえば、自尊心のネガティブな面として、ナルシシズム(自己愛)や、常に他人と比較してしまうこと、エゴをむき出しにして競争する、ということがありますが、セルフコンパッションには、こういうことを防ぐ効果があります。
それから、自尊心は、失敗したときに一気に崩壊してしまう傾向があります。そんなときも、セルフコンパッションが、自分を過度に卑下したり落ち込んだりすることを防いでくれます。
自分への思いやりの育て方
自分への思いやりを育てるための方法をいくつかご紹介します。
自分への思いやりをなかなか持てない、という人も、これらの方法を試してみるといいでしょう。
ジャーナリング
自分宛てにメッセージを送ります。
たとえば、自分のことを大切に思ってくれている人が、自分に手紙を書いてくれているということを想定して、自分自身にあてた文章を書いてみます。
あるいは、自分の今の状況、気持ち、やるべきことを書いて、自分宛てに電子メールを送ってみるというのでもいいでしょう。
ジャーナリングのやり方は、下の記事も参考にしてみてください。
マインドフルネス瞑想
マインドフルネス瞑想は、「今、ここ」に起こっていることに意識を向ける瞑想法です。ネフ博士も、マインドフルネスがセルフコンパッションの要素の一つであるといっています。
マインドフルネス瞑想では、自分の体や心で起こっていることを観察します。この過程で、自分の体や心へのやさしい気持ちや好奇心が育てられていきます。
具体的なマインドフルネス瞑想のやり方は、下のリンクをご参照ください。
慈悲の瞑想
慈悲の瞑想は、まず、自分へのやさしい気持ちを思い起こして、それを自分の親しい人、さらに、全人類、ありとあらゆる生き物に広げていく瞑想です。
ネフ博士が初めてセルフコンパッションを知ったのも、慈悲の瞑想を通してでした。
具体的なやり方は、下のリンクをご参照ください。
まとめ
自分に対して優しくする(セルフコンパッション)とは、「人に優しくしてあげるように、自分にも優しくしてあげる」ということで、目標達成を怠ることとか、欲望に身を委ねる、ということではありません。
自分に対して優しくするための実践方法として、ジャーナリング、マインドフルネス瞑想、慈悲の瞑想などがあり、ストレスを低減し、モチベーションを向上する効果があります。
自分に対して優しくすることは、下のリンクのマインドフルネス講座でも学ぶことができます。

コメント
日本人の友人に説明しようと思ってカタカナで「セルフコンパッション」を検索したところ、このサイトにたどり着きました。
情報の質と量に本当に驚きです。
英語のMindfulnessのサイトでもこれだけのコンテンツが無料で提供されている所は他に知りません。
これだけのコンテンツを日本語で用意するのにどれだけの労力が必要な事か…
おかげさまで日本の友人にマインドフルネスを説明する事が簡単になりました。
ありがとうございます。
コメントありがとうございます。とても励みになります。