G-LWGX0D5F1Z SIY (サーチ・インサイド・ユアセルフ)とは?

SIY (サーチ・インサイド・ユアセルフ)とは?

自己管理エモーショナルインテリジェンス

SIY (サーチ・インサイド・ユアセルフ) は、Google で開発された人材育成プログラムです。マインドフルネスとエモーショナルインテリジェンス (EQ) をベースとした従業員向け研修として、Google以外の企業に対しても、世界中で実施されています。

この記事は、SIY の目的、期待される効果、学習内容、プログラムの特徴、開催方法、その他の疑問にお答えします。

SIY とは何なのか、どうやったら会社で導入できるのか、といったことを調べている人に役に立つ情報です。

プログラムの目的・期待される効果

SIY では、マインドフルネスやエモーショナルインテリジェンスを学ぶことにより、次の効果を上げることを目的としています。

  • リーダーシップ: 参加者のリーダーシップを高める
  • 生産性: 参加者や組織の生産性を高める
  • メンタルヘルス: 参加者の幸福や心の健康を高める

以下、それぞれの項目について、説明します。

リーダーシップ

Google のような先進的な企業では、リーダーの役職にある人はもちろん、チームのメンバーであっても、それぞれの社員がリーダーシップを発揮して、チームや顧客、ビジネスパートナーにポジティブな影響力を持つことが求められます。

SIYでは、エモーショナルインテリジェンスの理論を元に、相手の気持ちや立場を尊重しつつ自分の影響力を高めていく方法や、「思いやり」を通じてチームの心理的安全性を醸成し、チーム内で信頼を得るための実践的な方法を学びます。

生産性

すべての企業にとって、生産性の向上は重要な課題です。生産性は競争力の源泉であり、厳しい競争に勝ち抜くためには、個人レベルと組織レベルの両方の生産性の向上が欠かせません。

SIY では、個人レベルの生産性を向上する方法として、エモーショナルインテリジェンスの理論に基づいてモチベーションを自分で作り出し、回復するための方法を学びます。

また、組織レベルの生産性を向上するために、「共感力」について学びます。Google で行われた社内調査(プロジェクト・アリストテレス)によると、チームの生産性を決める最も重要な要素は、リーダーやメンバーの資質ではなくて、そのチームに「心理的な安全性」があるかどうかでした。つまり、自分の成功や失敗を他のメンバーと共有したり、リスクを取ったりすることができる雰囲気や文化がチームにあるか、ということが高い生産性を生む出すために最も重要な要素だったのです。

SIY では、共感力について学ぶことを通じて、チームの「心理的な安全性」を向上し、生産性に貢献する人材の開発を目指します。

メンタルヘルス

従業員の幸福にすること、つまりメンタルヘルスの改善は、多くの企業にとって喫緊の課題です。現代のビジネス環境や職場環境は激しく変化しており、従業員は常にストレスにさらされています。いつ、誰が心の健康を損なっても不思議ではありません。離職率を減らす、という観点からもメンタルヘルス対策は重要です。

SIY では、参加者が自分自身でストレスに対処するにはどうすればよいかを学びます。まず、マインドフルネス瞑想の実践練習を通じてストレスへの基本的な対処法を学びます。また、自分自身に対するいたわりの気持ち(セルフ・コンパッション)を持つことについても学びます。

プログラムで学ぶこと

SIY の2日間プログラムで学ぶ内容は、以下のとおりです。

  • エモーショナルインテリジェンスによる理論
  • 脳科学による裏付け
  • マインドフルネスによる実践

エモーショナルインテリジェンス

エモーショナルインテリジェンスは、「感情に関する知性」、あるいは「心の知能指数 (EQ) 」とも呼ばれます。簡単にいうと、「自分や他人の感情を理解して、そこから得られる情報を行動の指針にする能力」のことです。

このエモーショナルインテリジェンスは、頭の良さ(IQ) とは別の概念です。IQは、記憶、認識、論理などに関する能力ですが、IQの高い人がエモーショナルインテリジェンスも高いとは限りません。

その一方で、エモーショナルインテリジェンスは、リーダーシップを発揮し、生産性を向上し、心の健康を保つための重要なスキルです。

SIYでは、このエモーショナルインテリジェンスの5つの要素を基礎的な項目から順番に学んでいきます。

  • 自己認識: 自分の内面の状態、自分にとって大切なもの、自分の強みなどを理解するということです。特に自分の感情を理解することを学びます。自己認識は、他のエモーショナルインテリジェンスの要素の基盤となるものです。
  • 自己管理: 衝動的に反応するのではなくて、その時々の最適な選択肢を選んで行動するための具体的な方法、特に怒りへの対処の方法を学びます。
  • モチベーション: 自分自身で仕事に対するモチベーションを作り、落ち込んでも回復する3つのステップを学びます。
  • 共感力: 他者への共感力を向上することによって人間関係を改善するとともに、チーム内の「心理的な安全性」の醸成、生産性向上に貢献します。
  • リーダーシップ: エモーショナルインテリジェンスの観点から特に重要なリーダーシップの2つのスキルである「難しい会話をこなす」ことと、「思いやりをもって人に接する」ことを学びます。

脳科学

SIY では、学習内容に信頼性を与えるための裏付けとして、最新の脳科学の研究をプログラムの中で紹介します。以下はその例です。

マインドフルネス

マインドフルネスとは、「今、ここ」で起こっていることに気がつくということです。自分の呼吸や、思考、感情など、「今、ここ」で起こっていることに注意を向けることによって、うわの空の状態から、マインドフルネスの状態にシフトします。

SIY では、エモーショナルインテリジェンスの実践方法、特に自己認識の実践方法として、マインドフルネス瞑想を学びます。

マインドフルネス瞑想は、自分の思考や感情、身体の感覚に気がついていく瞑想です。何かを信じ込むための瞑想ではありません。神秘性や宗教性を排除した、脳科学によって実証された、心のトレーニングとしてのマインドフルネス瞑想を学びます。

sitting meditation

マインドフルネス瞑想の音声ガイダンスの例、下のリンクをご参照ください。

マインドフルネス瞑想 音声ガイダンス

SIY の特徴

SIY の主な特徴は、次のとおりです。

体験から学ぶことを重視

講師によるプレゼンテーションの時間は全体の1/3で、残りの2/3は実践的な演習の時間です。講義から学ぶことよりも、演習や他の参加者との対話による体験から学ぶことが重視されています。

参加者は、自分の限界を超えない範囲で、積極的に、ありのままに、正直に、自分の意見や体験を他の参加者と共有することが求められます。

その一方で、参加者は、プログラム中に見聞きしたプライベートやビジネスに関することは、秘密にすることが求められます。

conversation

すぐに使える実践方法

マインドフルネス瞑想以外にも、「マインドフルリスニング」など、職場や家庭で役に立ち、すぐに使える様々な実践方法を学びます。

学んだことを定着させるための仕組み

2日間の教室形式のプログラムで学んだことを定着させるための仕組み「28日間チャレンジ」が用意されています。28日間チャンレンジの参加者には、毎日、電子メールで短い音声ガイダンスと課題が届きます。

SIY の対象者

SIY は以下のような研修に適しています。

  • シニア・マネージャー、エグゼクティブ向け研修
  • 特定のチーム向けの研修
  • 新任マネージャー向け研修
  • 非管理者向け研修
  • 新人社員向け研修

SIY 参加にあたっての準備

  • 参加の前に何かを予習したり、勉強したりする必要はありません。
  • 筆記用具とノートを持参する必要があります。
  • 2日間のプログラム中は、マインドフルに過ごすため、できるだけパソコンやスマホを遠ざけるように勧められます。
  • 動きやすいカジュアルな服装での参加が勧められます。

SIY の歴史・成り立ち

SIY は、Google の社員でエンジニアだった チャディー・メン・タン (Chade Meng Tan) によって開発されました。

書籍「サーチ・インサイド・ユアセルフ」によると、チャディー・メン・タンは、瞑想を人生や仕事の成功に活かせないか、という疑問をかねてから持っていました。そして、マインドフルネスとエモーショナルインテリジェンス (EQ) を組み合わせて、エンジニア向けのトレーニング・プログラムを開発するアイデアを思いつきます。

グーグルには、社員が勤務時間の20%を本来の業務以外のプロジェクトに取り組める」というルールがあります。「20%ルール」と呼ばれているそうです。チャディー・メン・タンとその仲間たちは、この時間を活用して、プログラムを開発しました。

このプログラムの開発には、各分野の専門家が関わりました。禅師、企業のCEO、スタンフォード大学の科学者、それから、エモーショナルインテリジェンスの大家である、ダニエル・ゴールドマン博士が開発に力を貸してくれたのです。

ここで開発されたプログラムは、「サーチ・インサイド・ユアセルフ」、つまり、「自分の内面を検索せよ」と名付けられました。この名前は、もとは仲間内のジョークだったのが正式な名前になってしまったのだとのことです。

チャディー・メン・タンは、その後、Google の人材開発部門に移って、講師として、このプログラムをGoogle のエンジニアに教えることになります。Google のエンジニアがこのようなプログラムを開発し、講師をすることについて、次のようなメリットがあったといいます。

  • Google のエンジニアは、疑い深くて科学的な頭を持っているので、科学に基づかないものを教えたら、面目丸つぶれになる。だから、サーチ・インサイド・ユアセルフは、しっかりとした科学的な根拠を持つものになった。
  • サーチ・インサイド・ユアセルフは、Google のエンジニアの業務や日常生活でも役に立つ実践的な内容になった。
  • サーチ・インサイド・ユアセルフでは、瞑想で使われる伝統的な言葉も、エンジニアでも理解できるわかりやすい言葉に置き換えることになった。

Google では、2007年以来、この2日間のプログラムが社員に提供されてきました。このプログラムの内容は評判を呼び、多くの受講者が、このプログラムが仕事と私生活の両面で人生を変える経験となった、とフィードバックしたそうです。

2012年、プログラムを開発した人たちによって、独立した非営利団体 SIYLI (Search Inside Yourself Leadership Institute) が設立されました。この組織によって、Google 以外の組織や一般の人にも「サーチ・インサイド・ユアセルフ」のプログラムが提供されるようになりました。プログラムの改良、普及、講師育成もこの組織に引き継がれました。

サーチ・インサイド・ユアセルフのプログラムの内容は、最新の科学的な知見を取り入れて、定期的にバージョンアップされています。

まとめ

サーチ・インサイド・ユアセルフは、Google で開発された人材開発プログラムです。エモーショナルインテリジェンスの知見とマインドフルネスの実践を組み合わせたものです。

「マインドフルに行きていこう」では、エモーショナルインテリジェンスとマインドフルネスに基づいた講座を日本の実情に合わせて実施しています。

この記事を書いた人
しげき

1963年生まれ。大阪市出身。京都大学法学部卒。KDDIやマイクロソフトなど、30年以上、IT業界で営業・マーケティングを担当した。
2007年からマインドフルネス瞑想を継続して実践する。
2018年にセミリタイアし、マインドフルネスの講師となる。MBSR 認定講師。

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