人類進化とマインドフルネス

人類進化とマインドフルネス

ハーバード大学の人類進化生物学教授、ダイエル・E・リーバマン教授による「人体600万年史ー科学が明かす進化・健康・疾病」を読んで、この本がマインドフルネスの理解にとても役に立つと思いました。

以下、この書籍の概要と、なぜマインドフルネスと関係しているのか、自分の思うところを書きます。

「人体600万年史」の概要

まず、この本では、人類(ホモ・サピエンス)が、600万年前にチンパンジーから別れてどのような経緯で進化してきたのか、最新の科学的な知見をもとに明らかにしていきます。

まず、人類の歴史について、

  • 600万年前ごろにアフリカで起こった気候変動により、森の木がまばらとなり、歩いて食料を探すことができる個体の方が子孫を残しやすくなりました。このため、二足歩行をする人類の祖先が、チンパンジーとの共通祖先から別れました。
  • 400万年前ごろ、それまでの果実中心の食事から、地下茎、種子、植物の茎といった歯ごたえのあるものを食べる祖先(アウストラロピテクス)が現れました。移動距離が長くなり、大きな臼歯ができました。
  • 190万年前ごろ、長距離を走り、狩猟を行う祖先(ホモ・エレクトス)が現れました。脳の容積が次第に大きくなり、その一部はアフリカを出て世界中に進出しました。
  • 20-40万年前ごろ、今の人類とほぼ同じ身体を持つホモ・サピエンスがアフリカで現れました。この集団は、コミュニケーションを行う能力に優れ、集団生活を行い、文化を作り、さまざまな道具を発明、改良していきました。やがて、アフリカから世界中に進出し、先にアフリカから世界に進出していたホモ・エレクトスやネアンデルタール人を駆逐し、地上で唯一の人類となりました。
  • 1万2千年前ごろ、最初の植物栽培が行われ、その後、農業は世界中で行われるようになりました。農業により、人工は増加し、文化も発展した一方で、それまでの狩猟採集生活とは異なる生活を強いられることになりました。たとえば、
    • 農作業における長時間の重労働
    • 感染病の蔓延
    • 栄養の偏り、など。
  • 約150年前、18世紀の後半のイギリスで産業革命が起こり、これをきっかけとして社会が大きく変化しました。様々なものが工業製品として生産され、仕事が細分化されて資本主義が導入されました。科学が発達し、公衆衛生が促進されました。生活は便利になり、寿命も伸びました。その一方で、さまざまな問題を抱えることになりました。たとえば、
    • 人は座って楽に過ごす時間がどんどん長くなり、あまり運動しなくなってきました。
    • 脂肪、デンプン、糖、塩を含む「おいしい」けれども不健康な食品が大量、安価に工業製品として生産され、消費されるようになりました。
    • 明るい照明や娯楽の発達、および、ストレスの増加により、睡眠時間が短くなっていきました。

アウストラロピテクス・アファレンシス

人類の遺伝子的な特徴は、今でも自然淘汰による変化を受けていますが、狩猟採取生活をしていた頃とほとんど変わっていません。わずかな変化といえば、大人になってからも牛乳を飲めるようになったことぐらいです。

身体の特徴は狩猟採集生活を送っていた頃とほとんど変わっていませんが、その一方で、私たちの生活は大きく変わりました。この結果、さまざまなミスマッチからくる病気が引き起こされるようになりました。この本の後半はこの「ミスマッチ病」について解説されています。

以下、この本でミスマッチ病として取り上げられているものの例です。

  • 肥満
  • 2型糖尿病
  • 動脈硬化と心臓疾患
  • 生殖器のがん
  • 骨粗鬆症
  • アレルギー症
  • 靴を履くことによる足の問題
  • 近視
  • 腰痛

たとえば、肥満は次のようなミスマッチが原因になっています。

狩猟採集生活をしていたときには、甘い物といえば蜂蜜ぐらいしかなかったので、甘い物を求めて口に入れる、という欲求は、子孫を残すために有利に働いてはいても、問題になることはありませんでした。

ところが、現代では、砂糖を含むおいしい食べ物が、工業製品として安価に量産されて、流通され、人の欲望を掻き立てるために広告されています。私達は甘いものを食べたいという狩猟採取生活のときから持っている欲求に負けて、大量に消費してしまいます。

その一方で、科学技術のおかげで便利な椅子や乗り物が発明されて、ほとんど身体を動かさなくても、生活できるようになりました。狩猟採集生活では、食料を得るために毎日狩りや採集をしないといけなかったので、身体を動かさずに済む生活は考えられませんでした。

このように、今の生活は、狩猟採集生活と比べて、高カロリーの食品を大量にとるようになったのに、消費エネルギーはずっと少ないので、肥満になってしまうのです。

このようなミスマッチ病は、現代の文化や社会の仕組みによって強化されて、次世代に引き継がれていくので、この本では、「ディスエボリューション」(悪い方向への進化)と呼んでいます。

自分の思うところ

この本には、「マインドフルネス」という言葉は一度も出てきませんが、私はマインドフルネスを理解するために重要なことが書かれていると思いました。以下、その理由を列記します。

  • 自分の身体は進化の結果、得られたものであること: 私の身体は、人類の進化の結果できたもので、この手の形や内臓の機能、脳の機能も、進化により得られたものです。今、心の中で考えていることや感情も、この遺伝子の形質とこれまでの環境や条件によって決まったものです。そう考えると、自分中心の考えから離れて、マインドフルに感覚や心を観察しやすくなります。
  • さまざまな「ミスマッチ病」があること: 自分の身体や心の問題の多くは、狩猟採取生活に合わせて作られた私の身体と、現代の生活とのミスマッチによって起こっています。そのことがわかっていると、身体や心の痛みを、マインドフルに観察しやすくなります。
  • 今生きている人はすべて、20万年前アフリカに住んでいた同じ人類の子孫であること: このことを思い出すと、私は、すべての人に親しみを感じやすくなります。また、チンパンジーその他の類人猿、さらに、あらゆる生命とのつながりを感じます。慈悲の瞑想がやりやすくなります。

出典:

人体600万年史ー科学が明かす進化・健康・疾病 ダイエル・E・リーバマン