「時間の終わりまで」は、アメリカの理論物理学者、ブライアン・グリーン博士による著書です。この宇宙の時間は最後にどうなるのか、不死を実現することが物理的に可能なのかを、一般人にもわかり易い言葉で説明しています。
これは自分の興味のある分野だったので、以下、自分なりに要約します。
グリーン博士は、まず、この宇宙が、「エントロピーは増大する」という熱力学第2法則に支配されていることを説明します。エントロピーとは、乱雑さと言った意味です。例えば、石油を燃やしてもエネルギーの総量は変わらない(熱力学第1法則)のですが、石油に含まれていた効率のいいエネルギーが熱のような使いにくいエネルギーに変わることで、エントロピーが増大します。
宇宙の始まりは、エントロピーが低い状態でした。そこから次第にエントロピーは増大しています。エントロピーは時間の経過とともに増大し、減少するということがありません。将来、宇宙のエントロピーが最大になれば、その後、何の変化も起こらないので、未来と過去は区別できなくなります。これが時間の終わりです。
では、なぜ、エントロピーが低い状態がそもそも発生したのか? つまり宇宙はどのように始まったのか、という問い対して、グリーン博士は、「科学はこの問いに答えることができない。」と率直に答えます。
宇宙論の研究者が考えた一つのシナリオは、到底起こりそうもない偶然が重なった結果、ビッグバンが起こる条件が満たされた、というものです。「必要なだけ長く待ちさえすれば、どのような起こりそうにないことでもいつかは起こる」という経験則に頼る研究者もいるとのことです。
私としては、これは熱力学の第2法則(エントロピーは増大する)に反しており、最初の前提と矛盾していると思いました。科学はこの問いに答えることができないのは、そういうことなのだと思います。
グリーン博士は、生命について、いつかは終わりを迎えるかどうか、という問題についても、この書籍で触れています。
まず、地球上のすべての生命は、一つの共通祖先から進化したものだそうです。その証拠として、地球上の生命のすべての細胞は、2つの共通した特徴を持っています。
- 細胞が生命維持機能に司令を与える情報をエンコードし、それを利用するために使っている方法がすべての生物で同じ。
- 細胞が生命維持に必要な機能を作動させるためのエネルギーを利用し、貯蔵し、配備する方法が、すべての生物で共通。
次に博士は、人間の意識も、無生物を構成する粒子のルールに則っていると考えます。「1000年の後には、物理主義のアプローチは稚拙だったということになるかもしれない。しかし私はそうはならないと思うのだ」と述べています。
したがって、自由意志というものはありません。博士は、「人間の自由は、実在の成り行きに介入することにあるのではなく、無生物の世界における振る舞いを長らく支配してきた応答の選択肢のなさという制約から開放されたことと関係しているのである。」と述べています。
更に博士は、言語、宗教、芸術について、その進化論的な解釈について触れたあと、生命がいつまで生き残ることができるか、ということについて考察します。その結論として、グリーン博士は次のように述べています。
「恒星であれブラックホールであれ、惑星であれ人間であれ、分子であれ原子であれ、物体はすべて、いずれ必ず崩壊する。どのくらい長持ちするかは、ものによってさまざまだ。しかし、人はみな死ぬということ、人類という種はいずれ絶滅するということ、そして少なくともこの宇宙においては、生命と心はほぼ確実に死に絶えるということは、長い目で見て、物理法則からごく自然に引き出される予想なのである。宇宙の歴史で唯一目新しいのは、我々がそれに気づいていることだ。」
私がこの書籍に興味を持った理由は、私が確実に死ぬのかどうかを確認したいという気持ちがあったからです。
博士によると、それは「ほぼ確実」ということですが、やはり、モヤモヤが残りました。最新の物理学でもこの問題に最終決着をつけることができないということがわかりました。
もし、今後、人工知能や生命科学が発達して、人間の「意識」の寿命が極限まで伸びて、さらに、物理学の新しい発見があって、熱力学第2法則を回避して、時間の終わりがなくなったらどうなるのか? 結局死を避ける可能性が残っているのか? といった疑問に最終的な答えを出してほしいものだと思います。
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