私は6歳のときに親戚の葬式に参列したのをきっかけに、それ以来、ずっと、死の恐怖になやまされてきました。今も、子供のときほどではありませんが、死ぬのが怖いです。
だから、「そもそもどうしてヒトは死ぬのか?」ということがずっと疑問でした。

最近読んだ書籍「ヒトはどうして死ぬのか」は、その疑問に答えてくれる本でした。
結論からいうと、ヒトが死ぬのは、遺伝子を確実に将来の世代に残すためです。
以下、自分なりにその概要をまとめます。
- ヒトの体は、細胞が分裂を繰り返すことによって、傷ついた細胞を置き換え、生きています。
- しかし、ヒトの細胞が分裂できる回数には上限があり、50-60回と決まっています。この上限を超えると、細胞は自動的に自死するように遺伝子によってプログラムされています。このプロセスをアポトーシスと呼びます。これがヒトに寿命がある直接の原因です。
- では、なぜ細胞が自死するような遺伝子が備わっているのか? その答えは、生命進化の歴史にあります。
- 生命は、もともと単純な単細胞生物から始まりました。単細胞生物は、無限に増殖していくだけなので、事故にあわない限り、死ぬということはありません。やがて、進化によって多細胞生物が出現し、その中に、父親と母親の両方から遺伝子を受け取る「有性生殖」を行う生物が現れます。この有性生殖を行う生物には寿命があります。必ず死を迎えるのです。
- 有性生殖では、世代が代わるごとに、二組の遺伝子をランダムに混ぜあわせて、新しい遺伝子の組成を作ります。このようにすると、次の世代は、さまざまな遺伝子組成を持つ個体の集合になるので、新しい環境に適応し、バクテリアやウィルスに抵抗力のある子孫を残しやすくなるのです。
- この有性生殖を行う生物の場合、古い世代の個体が死を迎え、新しい世代のみによって更に次の世代を作り出す、という形にしたほうが、安定的に遺伝子を後世に伝えることが出来ます。古くなった個体の遺伝子は、さまざまな化学物質、活性酸素、紫外線、放射線などの作用によって、傷が蓄積しているからです。

これが進化の過程で寿命が生まれた経緯です。私達が死ぬ理由は、遺伝子を確実に将来に残すためだったのです。
これから科学が進歩することによって、不老不死を実現することが可能でしょうか?
この書籍では、死の遺伝子を操作することによって、不老不死が実現する可能性がないわけではない、としています。
ただし、不老不死の問題点として、120歳程度の最大寿命を前提にできているヒトの脳が200年、500年といった寿命で自己同一性を保っていられるかどうか、疑問であること、また、不老不死が実現すると種の保存や進化が保たれなくなる恐れがあることを、この書籍では、指摘されています。
また、著者は、死の遺伝子があるおかげで「必ず死ねる」という観点もある、と指摘されています。死すべき存在であるからこそ、与えられた有限の人生をしっかり生き抜こうと思うことができるといいます。
私自身は、「不老不死は実現できない」と思います。なぜなら、この宇宙はいずれ終わりを迎えるからです。科学技術の進歩によって、ヒトの寿命が200年、500年、1万年、1億年、100億年と伸びていったとしても、宇宙が終わるときには、すべての生命は終わりを迎えることでしょう。100億年の人生でも、100年の人生でも、終わりを必ず迎えるという意味では同じです。不老長寿を願い、寿命を伸ばすということは、単に、死を先送りにすることだ、という考え方もできると思います。
不老長寿を願って死を先送りすることよりも、むしろ、「死ぬのが怖い」という感情をどのように対処するか、ということの方が大切なのではないか、と思います。
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